目次
IT業界の客先常駐とは
客先常駐とは、技術者を求めている企業に対してエンジニアを派遣させ、派遣されたエンジニアはその企業に常駐して働く働き方のことをいいます。
一般的には、大手企業に中小企業のエンジニアが常駐して働くケースが多いです。中小企業はエンジニアを、大手企業に常駐させる代わりに、毎月お金をもらう形となります。
客先常駐の契約形態には「派遣契約」と「準委任契約」があります。
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客先常駐の契約形態その1「派遣契約」
派遣契約とは、名前の通りエンジニアを単体で派遣する契約です。派遣契約により派遣されたエンジニアは、常駐先顧客の指示で作業をおこないます。
このようにエンジニアを提供する代わりに、毎月お金をもらう契約が派遣契約です。
客先常駐の契約形態その2「準委任契約」
準委任契約とは、チームでエンジニアを提供する契約です。準委任契約により派遣されたエンジニアのチームは、チームリーダーの指示で作業をおこなうこととなります。準委任契約はチームでの提供になるので、最低2名以上が客先に常駐している必要があります。
このようにチームで提供します。お金に関しては、派遣契約と同じで提供する人に対してお金が発生します。
客先常駐の契約形態での問題「偽装請負」
客先常駐の契約形態で問題になっているのが、偽装請負です。
準委任契約は、チームリーダーの指示で作業する契約です。上記図の「本来の形」のように「発注側社員」と「受注側のリーダー」が仕事内容の話をして、チームメンバーへの作業指示は「受注側リーダー」が行う形です。
しかし、実態は上記図の「偽装請負」のように、「発注側社員」の指示で仕事を行っていることがあるのです。この問題は「偽装請負」と呼ばれています。
準委任契約にも関わらず、派遣契約のような働き方になってしまっているのです。偽装請負は契約違反です。ただ「作業指示」というのは、人によっては感じ方も違います。どのレベルの依頼が「作業指示」なのかは難しい所です。
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厚生労働省の「労働者派遣・請負を適正に 行うためのガイド(※以下の参考URL)」には、Q&A形式で労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分を明確化化することを目的としている資料を発表しています。
参考URL:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000078287.pdf
客先常駐の契約形態での問題「二重派遣」
IT業界の客先常駐では、何社も跨って客先に常駐することがあります。上記図のように「孫請けの中小企業」→「下請け中小企業」にエンジニアを派遣し、更にそのエンジニアを「大手企業」に派遣する形となります。
ここで気になるのは「職業安定法第44条」で定められている"二重派遣"です。二重派遣は違法です。
実態は違法にならないように、以下のような契約にすることが一般的です。
- 「孫請けの中小企業」→「下請け中小企業」間の契約は派遣契約
- 「下請け中小企業」→「大手企業」間の契約は準委任契約
孫請け中小企業の社員は、下請け中小企業に「派遣契約」で契約、その後、大手企業に「準委任契約」で契約しているのです。そのため、孫請け中小企業の社員は、下請け中小企業のリーダーの指示で作業を行います。
なぜIT業界では客先常駐の働き方が多いのか?
客先常駐は雇い主にとって都合の良い働き方
IT企業はモノ作りの業界です。IT業界でシステムを開発する時、下記の工程に分けて作業を行います。
- 要件定義:システムの仕様を固める工程。リーダークラスの有識者が少人数で行うのが一般的です。
- 設計:要件定義で固めた仕様を設計書に記述していく工程であり、中人数で行います。
- 開発:設計書を元にプログラミングを行う工程。プログラミングには時間がかかるので、大人数で行う工程です。
- 試験:プログラミングが設計書通りに作られているかを確認する工程。開発よりはやや少ない中人数で行う工程です。
- 保守:リリース後に発生したバグの修正や、お客様からの質問等に答える工程であり、少人数で行います。
このように各工程で、必要な人数がだいぶ変わるのが特徴といえます。
もう少し具体的に書くと(※人数はあくまでも参考例です)
工程 | 期間 | 必要人数 |
要件定義 | 4月~6月 | 4名 |
設計 | 7月~9月 | 8名 |
開発 | 10月~1月 | 15名 |
試験 | 2月~4月 | 6名 |
保守 | 5月~ (1年間) | 2名 |
開発工程である10月~1月は15名が必要となりますが、開発が終われば徐々に必要人数が減り保守の工程では2名いれば十分です。一時的に沢山の人が必要な時期とそうではない時期がはっきりしているのが特徴です。
客先常駐でエンジニアを雇うのではなく、自社の社員で作業を行っていた場合、「一定期間仕事がない」もしくは「一定期間人が足りない」という事態になる危険性があるのです。
客先常駐でエンジニアを雇っておけば、必要な時にエンジニアを増員し、不要な時は契約を終了すればよいのです。
客先常駐という働き方は、雇い主にとって都合の良い働き方なのです。
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客先常駐は雇われ側にとっても楽な働き方
客先常駐は、雇い主にとって都合の良い働き方ですが、実は雇われ側にとっても都合の良い働き方です。
なぜなら雇われ側の企業は、正社員を派遣するだけでお金がもらえるからです。
客先常駐の契約形態は「派遣契約」と「準委任契約」がほとんどです。「派遣契約」と「準委任契約」は人に対してお金が発生する契約です。
このようにAさんを提供するだけで、雇われ側企業は毎月80万円の売上をあげることができるのです。(※金額はあくまでも例です。)
そして80万円の売上からAさんの給料、会社の利益、間接費などに割り当てるのです。「請負案件」や「自社製品」とは違いリスクが少ないので、会社側は毎月安定した売上を上げることができます。
ただ、上手くいけば大幅な売上が期待できる「請負案件」や「自社製品」とは違い、客先常駐は大幅な売上は期待できません。
客先常駐で働くメリット
責任がないから気楽である
客先常駐は、基本的には派遣社員と変わらない働き方です。なぜなら「派遣契約」や「準委任契約」には契約期間があり期間が終了すると「契約更新」もしくは「契約終了」になるからです。
そのため、責任のあるは仕事(お金に関することや、お客様と直接やり取りする など)は任されないことが多いです。いついなくなるか分からない客先常駐の社員は、責任のある仕事は任されにくく、雇い主である大手企業の社員とは、責任が大きく違います。
現場にもよりますが、雇い主である大手企業の社員(特にリーダークラス)は、複数の案件を同時に担当していることがよくあります。そしてお客様との打ち合わせも多く、多忙な人が多いイメージがあります。
それに比べると客先常駐の社員は、設計やプログラムがメインの作業であり、基本一つの案件を担当していることが多いです。そしてお客様との打ち合わせに参加することもあまりなく、自分のペースで仕事ができることが多いです。(現場によっては、客先常駐の社員に責任のある仕事を任せていることもあります。)
雇い主である大手企業の社員に比べると、責任が少ないので気楽に作業ができるのがメリットといえます。
比較的休みが取りやすい
客先常駐は「比較的休みが取りやすい」働き方です。これは大きなメリットといえます。
なぜ休みが取りやすいかというと、責任のある仕事が任されにくく、自分のペースで作業できるからです。IT業界はモノ作りの仕事です。要するにスケジュール内にモノが作れれば良いのです。
また開発の工程は忙しい時期ですが、保守や試験の工程は開発に比べると忙しくはありません。極端な場合は、仕事がないので待機という時もあります。
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旅行で1週間お休みを取ることも、計画的に事前に上長へ話しておけば取得することは可能です。また、大切な打ち合わせなどがなければ、体調不良で当日お休みを取得することも可能です。
休んだ日の分の作業は、違う日に頑張って取り戻せばいいのです。ただ休みが多すぎると「勤怠が悪い」と評価が下がってしまうので、あくまでも計画的に休暇を取得することをお勧めします。
嫌な現場は変えることができる
これは客先常駐の最大のメリットだと考えています。IT業界は、様々な現場が存在します。
- 「楽しい現場」
- 「やりがいのある仕事の現場」
- 「楽な現場」
- 「つまらない現場」
- 「長時間労働をさせられる現場」
- 「嫌な人がいる現場」
- 「辛い現場」
などなど、「当たり現場」もあれば「ハズレ現場」もあるのです。
自社製品を作っているような会社では、自分の会社内で製品を作っている為、その現場が嫌な場合は、「会社を辞める」しかありません。他部署があれば「部署を変えてもらう」ことも可能かもしれませんが。
客先常駐で働いている場合、上長に相談して現場を変えてもらうことができます。
「この現場辛いです」というネガティブな理由だけでなく、「新しい技術を学びたいから違う現場で経験したい」というポジティブな理由で現場を変えてもらう事もできるのです。
IT業界は多忙な業界です。なかには長時間労働やパワハラ上司がいる現場もあります。そんな時、「会社を辞める」という選択肢の前に「現場を変えてもらう」という選択肢があることが客先常駐の最大のメリットだといえるのではないでしょうか。
客先常駐で働くデメリット
責任のある仕事が任されにくい
客先常駐のメリットで「責任がないから気楽である」と説明しましたが、悪く言えば「責任のある仕事が任されにくい」ということ。
一般的な社会人の成長(出世)のレールは、若手は「技術を学ぶ」、中堅は「人の管理を学ぶ」、管理職は「お金の管理を学ぶ」ことが出世ルートです。雇い主である大手企業の社員は、そのレールに乗り成長していきます。リーダーや管理職になれるのは一部の人なので、出世のレールから脱落してしまう人も沢山いますが、レールはしっかり引かれています。
しかし客先常駐で働いていると、責任のある仕事が任されにくく、いつまでたっても「お金の管理」などを学ぶ機会が少ないのが現実です。客先常駐で働いていても部下はできることもあるので「人の管理」は多少学ぶ機会はありますが、「お金の管理」を学ぶ機会はほとんどありません。
社会人の成長(リーダーの育成)は70%が経験、20%が先輩や上司からのアドバイス、10%が研修と言われています。これは「7・2・1の法則」と言われ、リーダ育成などの企業研修でもよく使われている言葉です。
社会人の成長は70%が実際に経験し学んだ事の蓄積です。場数を踏んで経験した体験、特に失敗体験は成長の大きな糧となります。もともとリーダーの素質がある人は初めから上手く出来るかもしれません。しかしほとんどの人は経験を得て自分の得意不得意を理解し、改善することにより成長していきます。リーダー育成は社員に部下管理の経験をさせることが重要になるのです。
客先常駐で働いていると「責任のある仕事」が任されにくいため、「人の管理」や「お金の管理」が身に付きにくくなります。なぜなら社会人の成長は70%が経験だから(7・2・1の法則)見ているだけでは分からない、実際に体験することが成長に繋がるのです。
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ハズレ現場の場合、長時間労働させられる危険性がある
IT業界といえば、長時間残業が当たり前のイメージがある業界でした。
近年は働き方改革により、IT業界の長時間労働はかなり改善されてきています。特に大手企業などは、残業時間の制限や決まった時間以上残業するためには上長の許可が必要だったりと、色々な対策が行われています。
しかし、現場によってはまだ長時間労働をさせられるハズレ現場が存在しています。
IT業界はモノ作りの業界です。モノ作りには必ず納期が決まっています。その納期に間に合わない、納期に間に合っても、作ったシステムがバグだらけ。こういった現場では、どうしても長時間労働をさせられることがあります。
現在の労働行政では、過労死ラインは80時間と定められています。1ヵ月くらいの短期であればなんとか頑張れることもありますが、長期に渡り長時間労働をしていると体調を崩す危険性が非常に高くなります。ハズレ現場を引いてしまった場合は、自分の体を第一優先に考えて行動してほしいと思っています。
ハズレ現場ほど、人の管理が出来ておらず、まるでモノのように扱われることがあります。
「人がいなくなれば補充するだけ」これの繰り返しです。
客先常駐のメリットで「嫌な現場は変えることができる」と説明しました。客先常駐は現場を変えることができるのです。過労死ライン80時間を超える長時間残業をしている方は、上長に相談して現場を変えてもらうことも選択肢の一つです。
ただ中には話の通じない上司もいるので、その場合は転職するなどの対策をすることをお勧めします。
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